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SPIRAL

写真提供:スパイラル/株式会社ワコールアートセンター

SPIRAL キュレーター 加藤育子様インタビュー

プレス・ディレクター/中村汐里、菅勇吾

表参道駅B1出口を地上に上がると、ひときわ目を引く特徴的な意匠を持つポストモダニズム建築に出会う。「SPIRAL」、建築家・槇文彦によって1985年に設計され、以降約40年間、「生活とアートの融合」を掲げ、ジャンルの垣根を超え、人々がコンテンポラリーな芸術に触れることのできる場を創造し続けている。

ボディファッションの代名詞であるワコールを親会社に持つということもあり、うまれながらにしてファッションとのつながりも深い。あの三宅一生や山本寛斎もSPIRALでイベントを行ったことがあるという。

美術館でもギャラリーでもない。螺旋状の構造をもち、開放的でオルタナティブな独自の空間。 今を生きるアーティスト、そして「ここ」でしかできない表現を用いて今を生きる人々へメッセージを提示する。

今回SPIRALのキュレーターとして、数々のクリエーションを手掛けてられてきた加藤育子様にインタビューを行い、文化に携わる仕事の意義、そして日々創造活動に取り組む私たち学生にむけてメッセージを頂いた。

合理化・効率化の社会の中で『感情』の部分は生きる上での突破口となる

Q. コロナ禍において、「不要不急」という言葉を頻繁に耳にしました。
その中で最初にストップがかけられたものの一つがアートや娯楽でした。
非常時におけるアートやそれを生み出すクリエイターが社会において担う役割とはどのようなものでしょうか?

A. 極論になりますが、電気や水道などの生活インフラに比べれば、アートは必要緊急とは言えないと思うんですよね。一方でラスコーの洞窟の壁画のように約2万年前もから、私たちの歴史の中でアートが一緒に生きてきたという事実がある。

美学で「真善美」って言いますけど、「真」と「善」、つまり正しいこと、良いこと、法律などの言語や数字。質というよりは量とか規範とか、わかりやすいフォーマットで可視化して、合理的なものだけに囲まれていくと人間は息苦しくなる。そういう時に、「美」すなわち理性ではない、心を揺さぶる「感情」の部分が生きていく上での突破口になると思うんですよね。

最近でいうと、合理化・効率化の波がものすごい。 でも、そういう状況だからこそ、理性にとらわれない「表現」が持つ、感情を動かす力が必要だと思います。それは人が生きていく中で絶対に不可欠なものなんですよね。

アーティストというのは誰に頼まれるわけでもなく、自分の中の衝動の火のようなものを絶やさずに作り続けている人たちだと思います。そういう姿勢だったり、あり方そのものが、私たちの社会、あるいは一人ひとりの心をゆさぶるんじゃないかと思います。

届け先のことをイメージした課題・疑問づくりが重要

Q. 加藤様が普段されているようなクリエイティブなお仕事、カルチャーシーンに携わるお仕事にあこがれを抱く学生は多くいると感じます。加藤様から見て、学生がするべきことはどのようなことだとお考えですか?

A. そうですね、 一つは数をたくさん見るということですね。 アート、デザイン、建築、ファッション、映像、音楽。近接領域はたくさんあります。すべてのジャンルにおいて、専門家になることはできないと思いますが、皆さんご自身の「軸足」というものを定めながら、可動領域を広くしていくことは大事です。

数、量を見ていないと、自分の中での判断基準や審美眼は絶対に育ちません。 例えば作品を見たときに、この作品が素晴らしいのか、いまひとつなのか、又よく使われている手法なのか、それとも他にない斬新な手法をとっているのか。それは多くのものに触れていないとわからないことですよね。量をこなしていくことで、質が見えるようになってきます。

一方、例えば採用面接で、量を見てきた学生さんにもたくさんお会いするんです。そのときに、受かる方とそうでない方の違いは何か。それは、見たものを自分の中で核とすること、そしてそれを仕事へ応用させていく意識があるかどうかです。仕事にできなければ、それは趣味の世界になってしまいます。

プロフェッショナルになりたいのであれば、自分がどう受け止めたのかだけではなく、どうやって、だれに、何を届けたいのか。届け先のことまでイメージをして課題・疑問を作っていくということが大事 だと思っています。求めるハードルは高いですね。(笑)

ファッション×○○、掛け算によって可動領域が広がる

Q. 学生服職団体にどのような印象をおもちですか。また、どのようなことを期待されますか?

A. 突撃できることが学生さんの強みだと思います。社会人になると、順序やマナーなどが気になってしまってなかなか突撃できないんです。(笑)

学生という立場を存分に利用して、いろいろなことに挑戦することができる。それは学生さんの強みだなあと思います。また、インカレの学生服職団体ということはファッションが専門ではなく、別の専攻をお持ちの方が多いということですよね。ファッションとは別の自分の軸があると、いろいろな掛け算ができると思うんです。

ファッション×数学、ファッション×法律、ファッション×文学というように。掛け算ができると、ものすごく可動領域が広がっていくと思います。私の専門は「これです」と針の孔のように狭いところを掘っていくのは、研究者の世界です。そうではなくて、細い糸を束ねて、束ねて、太くしていく。かけ合わせていくことで大きな花束を作ることができる。そのような視点や角度の広がりがあるというのは、インカレの団体が持つ長所ですし非常に楽しみな部分です。

自分が絶対に信じられるポイントを一つだけ持つ

Q. 答えのないクリエイションに難しさを感じます。常に期限があるという中で日々クリエーションを行っていらっしゃいますが、その中でより良いクリエイションを行うためのノウハウなどがございましたらお聞きしたいです。

A. これは日ごろ私も苦労していることではあります。何事にも上限がありますよね。それは資源、つまり予算、時間、人材などです。でもその限られた資源の中で、最大の成果を出すことが求められる。成果が出ない、例えば間に合わなくてできなかったというのは0点なんですよね。たとえどんなに企画書が百点でも実現しなかったら0点。何よりも実現させることが大事なんです。

そこで重要なのは、優先すべきことは何かと考えることです。 クリエイティブって正解がないじゃないですか。(笑) 「もしかしたらあのやり方、あの人が言っていた方法のほうが良かったのかもしれない。」って後になって思ったり、私も日々悩むことは多いです。それでも、クリエイティブに関わる仕事をやっていきたいのであれば、「自分が絶対に信じられるポイントを一つだけ持つ」ということが大事かと思います。それ以外は最悪譲っても構わないと思えるほど、大切にしたいポイントを一つ持つことです。クリエイションを行っていく際、全方位を思い通りに進めることはできません。

だから優先順位をつけることが大事だなと思っています。それは、個人だけでなく、組織でも同じです。会社などの場合、ビジネスでもよく言いますが、例えば、仕入れとサービスと、マーケティング。この三つがそろっていれば、ほぼ確実に勝てるんです。独自のものを仕入れることができて、高付加価値のサービスが提供できて、広く広告を打ってみんなに知られれば勝てる。でも一般的な会社はなかなか三つもそろわないんですよ。大金持ちではない限り。なので、どこかに勝負どころを定めるということが大事だと思っています。

それは学生さんの活動でも一緒じゃないかなと思います。組織であっても個人であっても、自分自身の中に優先順位をつける、勝負どころを定めるということが、大事です。

写真提供:スパイラル/株式会社ワコールアートセンター
Photo : Junpei Kato

Q. そのたった一つの自分が信じられるものそして自分の勝負どころ、独自性というのはどのように見つけるのでしょうか。 やはり先程おっしゃっていたように、数を多くみる、場数を踏むということにつながるのでしょうか。

A. 最終的には信念みたいなところはありますね。そしてその自分の信念を補強するために、数をたくさん見ています。これだと信じているから、それを説得するための材料として、数を見るんです。私の場合は、アートへの愛と信念ですね。(笑)